第24回|親が子を育てるだけでなく親も子に育てられる
K.Mさん【58歳・主婦・東京都】
結婚などまだまだ先と思っていた矢先に

「会って欲しい人がいる」と、娘から言われた時、娘はまだ24歳。
社会人になって2年目の、結婚などまだまだ先と思っていた矢先のことでした。
突然過ぎる娘の話に、夫は「結婚はまだ早すぎる」の一点張りで、「結婚させてほしい」と、スーツをバッチリ決めて挨拶にきた彼にも 「こんな娘では結婚はまだまだ無理だと思う。
君にも苦労をかけてしまう」と、 思いつく限りの抵抗をしていました。
しかしもちろん、彼に不満があるわけではなく、ただひとり娘を嫁がせることが寂しかっただけでしたので、抵抗むなしく若い2人に押し切られる形で、娘は2ヶ月後に入籍をしました。
結婚式をあげてから入籍をするというのが常識であった世代の私は、結婚式をあげずに入籍することに戸惑い、これまであまり家の手伝いをしていない娘が、花嫁修業もせず果たして家事をうまくこなせるだろうか? 仕事もあるなか、家庭との両立ができるだろうか? などなど……不安で色々と考えてしまうこともありました。
でも、家を出てから久しぶりに会った娘は、そんな不安をかき消してくれる程、明るく楽しそうに新婚生活の話をしてくれました。
そんな娘の姿を見て、30年前の自分の新婚当時の記憶がよみがえって来ました。
そういえば私も娘と同じように、あまり家事をしたことのないまま結婚したんだった……。
口には決して出さなかったけれどきっと母もこんな不安と嬉しさが入り交じった複雑な気持ちで結婚する私を送り出したのだろうな。
当時はそんな母の気持ちを考えもしなかったけれど、今ならよくわかる……と。
本当にあっという間の楽しい子育て時間だった
おばあちゃん子の娘は、結婚式に祖母が来られないことをとても残念がり、私も出来る事なら母を結婚式に出席させてあげたいと思っていました。
そこで、母が30年前に私の結婚式に参列するためにわざわざ作った思い出の留袖を娘の結婚式に着て、母と一緒に娘の結婚を祝福しようと決めました。
そして結婚式当日、母の留袖に袖を通し、襟を合わせて着ていくと、留袖効果でしょうか? 気持ちが凛として、娘の成長と娘の門出を喜ぶ一人の母親としての気持ちが湧いてくるのにはとても驚きました。
ドレス姿の幸せそうな娘を見ると、心の底から「幸せになってね」と思うとともに、あんなに小さかった娘が、こんなに立派になって、本当にあっという間の楽しい子育て時間だったな・・と涙がとまりませんでした。
ところで、彼のご両親は当時海外赴任中で息子の結婚式に参列したら、またすぐに戻らなければならないという状況でしたが、お母様は留袖を着ていられました。
その留袖は貝桶柄のとても華やかで上品なもので、また帯も金糸の入ったとても豪華なつくりの素敵なものでした。
後から聞いてとても驚いたのですが、自分の留袖も持っていたにもかかわらず、その留袖はレンタルしたものだとのことです。
私の中のレンタル着物とは、正直、そんなに良い生地ではなく、自前の着物と並ぶとすぐにレンタルだとわかるような代物が多いのでは? という感じでしたが、見事にそのイメージが覆させられました。
また、実際に利用した彼のお母様も、今のレンタルは、色柄も豊富な上に、何から何までそろっていて、しかもそのまま返せば良いので急いで赴任地へ戻らなければならない事情を考えると、本当に大正解だったと喜んでおられました。
今結婚式に娘からもらったアルバムをめくりつつ、これまでのことを振り返って見ています。
育児は、親が子供を育てるだけでなく、親が子供に育てられることなのだ、とつくづく思います。
子育てを通じていろいろな行事や体験をしていきながら、私も子供と一緒に成長してきたのだなと、娘に感謝しています。